今回の記事は、「NAM」というHIV/AIDSに関する情報サイトに掲載された「England's big PrEP implementation trial releases its enrolment data: young people under-represented」です。
PrEPとは、性交渉の前後に継続して抗HIV薬(ツルバダかデシコビ)を服用することで、HIV感染リスクを大幅に下げる方法です。なお、PrEPについては、「PrEP@TOKYO」に詳しい情報があります。
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今週開催された英国HIV協会と英国セクシュアルヘルスとHIV協会の合同会議で、イングランドでのHIV曝露前予防(PrEP)の大規模な実施研究「IMPACTトライアル」の最初のデータが発表された。
この会議で、ロンドンのチェルシー&ウェストミンスター病院の主任研究員であるAnn Sullivan博士は、リスクグループや民族・国籍の違いに関し参加者呼びかけに差があるが、16~25歳の若年層が、高齢者に比べて、HIVのリスクに比して参加者数が少ないことが、トライアルへの参加が不平等であることを最も明確に示していると述べた。
Sullivan博士が発表したデータは、ベースラインとなる単体のデータ。今後の分析では、トライアル中の参加者のHIV感染とその理由、トライアル中の集団レベルでのHIV感染率とSTI感染率の変化、そして、その結果と他のリスク計算とから導き出す「PrEP cascade」、すなわち、このトライアルに参加すること守られたHIV感染のリスクを負った英国人集団の割合、を見ていく。
このトライアルは2017年10月から2020年7月まで実施された。当初は10,000人の試験参加者が割り当てられていたが、このトライアルの明らかな必要性と人気によって、2回延長され、最大で26,000人の参加者に提供されることになった。英国の大半のセクシュアルヘルスクリニック、157が参加し、1つのセンターにつき最低20人のIMPACT参加者があった。
この試験では、相異なる定義「PrEPを受けるのが望ましい」と「HIVのリスクがある」が用いられた。望ましいとされた第一の基準は、ゲイ/バイセクシャルの男性とトランスの女性のうち、過去3カ月間にコンドームを使わないセックスをしたことがあり、今後3カ月間にもすることが予想されること。
もう1つの基準は、ウイルス量が200以上のHIV陽性のパートナーがいること。3つ目の基準は、ウイルス抑制されていないHIV陽性のパートナーを持つ人で、「同様の高いリスクがある」と考えられることだった。
「HIVのリスクがある」というのは、HIVリスクを示唆する特徴を持つすべての人を含むより広いカテゴリーだ。HIV検査やSTI検査をたびたび受けたことがある人、曝露後の予防措置(PEP)を受けたことがある人、セックスワークに従事している人、パートナーへの通知でクリニックに紹介された人など。
最終的に、実際の参加者数は24,255人。このうち、大部分はシスジェンダーのゲイとバイセクシャルの男性だったが、1038人(4.3%、23人に1人)のトライアル参加者は、このグループに属していなかった。
この1038人のうち、3分の1強がトランスジェンダーの女性(359人)、3分の1弱がシスジェンダーの女性(333人)だった。29%が男性で、トランスジェンダーの男性(152人)とシスジェンダーの異性愛者の男性(150人)がほぼ同数。また、少数ではあるが、ノン・バイナリーの参加者もいた(35名)。
IMPACTでは、シスジェンダーのゲイおよびバイセクシャルの男性に対して、PrEPを毎日開始するか、Event-driven(ツルバダを、性行為の24〜2時間前に2錠、性行為のあと24時間以内に1錠、それからまた24時間以内に1錠飲む方法)で開始するかの選択を提供した。その結果、大多数(85%)の参加者が毎日のPrEPで開始することを選択。この会議で、Event-drivenのPrEPを選択するゲイ男性の割合が時間とともに増加したのスコットランドの発表があったが、IMPACTでもこのようなことがあるか注目される。
Sullivan博士から、登録者の年齢、民族、国籍、居住地などの数値も発表された。ただ、これは2020年2月末までに登録された21,357人のみを対象としており、COVIDパンデミック時に登録された残りの2898人については、別に分析される予定となっている。
参加者の年齢の中央値は33歳、16歳から86歳までと非常に幅がああった。シスジェンダーのゲイとバイセクシャルの男性の大半は、25歳から40歳。平均して、シスジェンダーの女性は他の参加者よりもやや年上で、トランスジェンダーの女性は顕著に若かった。
トライアル参加者の大部分は白人で、シスジェンダーの男性とバイセクシャルの男性の76%、シスジェンダーの女性の60%、シスジェンダーの異性愛者の男性の49%がそうであった。アフリカ系黒人は、HIV感染者が多いにもかかわらず、限られた人数しか参加されていない(シスジェンダー女性の11%、シスジェンダー異性愛男性の19%)。
シスジェンダーの男性とバイセクシャルの男性のうち、白人以外の民族で最も多かったのはアジア人で5%だった。トランスジェンダー女性の約11%がアジア人で、アフリカ系黒人やカリブ系のトランスジェンダー女性・男性はほとんどいなかった。
試験参加者の3分の1弱は英国以外の国で生まれ、シスジェンダーのゲイとバイセクシャルの男性では30%。しかし、トランスジェンダーの女性では、海外で生まれた人の割合が40%とかなり高くなっている。このグループとシスジェンダーのヘテロセクシャル男性では、海外で生まれた人の大半が非白人であったが、他のグループでは大半が白人であった。
参加者の50%以上がロンドンに住んでいたが、シスジェンダーの女性とヘテロセクシャルの男性では少数だった。逆に、トランスジェンダーの女性の60%近くがロンドンに住んでおり、トランスジェンダーの女性と男性の大部分がロンドンまたは南部に住んでいた。これは、ロンドンとバーミンガムの3つのクリニックで行われた募集プログラムが成功したことによるものである。
研究者たちは、より広い定義の「リスクあり」を用い、トライアルのデータおよびセクシュアル・ヘルス・クリニックの通院者のより幅広いデータベースのデータを用いて、PrEPカバー率(臨床試験に登録されたリスクのある人の割合)と、PrEPアップテイク(リクルートされた適格と評価された人の割合)を算出をおこなった。
セクシュアル・ヘルス・クリニックに通うシスジェンダーのゲイとバイセクシャルの男性のほぼ全員(93%)が「リスクあり」と判定された。また、26%が「(PrEP開始が)望ましい」と判定され、そのうち半数(13%)が登録。 トランス女性の77%、トランス男性の65%が「リスクあり」。
その大多数がPrEPの対象となり、セクシュアル・ヘルス・クリニックに通うトランス女性の62%、トランス男性の50%が登録。逆に、シスジェンダーの異性愛者男性のクリニック通院者のうち、HIVのリスクがあると判断されたのはわずか5%だった。白人で英国以外の国で生まれた人は、HIV感染のリスクが高いと判断されたが、それはシスジェンダーのゲイ男性だだったからではなく、他のグループと不均衡な形を形成している。
しかし、カバー率と参加率の両方で最も大きな不一致があったのは、年齢層の違いだった。最も高い2つの年齢層の加入者は16%だったが、最も若い2つの年齢層の登録者はわずか8%だった。
シスジェンダーのゲイとバイセクシャルの男性だけをとりあげると、16~19歳のリスクのある人のうち、わずか9%しか研究に登録していなかったのに対し、45~49歳では28%だったと計算されている(カバー率)。また、16~19歳の「(PrEP開始が)望ましい」と判断された人のうち、登録したのはわずか38%で、45~49歳では67%だった(参加率)。
このように若年層の参加が少ない理由についての質問に対して、Sullivan博士は、若年層はPrEPや一般的な性の健康についての知識が少ないのではないかと述べている。また、臨床医から直接質問されない場合は、特に、性行動を開示することにためらいを感じる可能性もある
しかし、逆説的ではあるが、臨床医が若年者に直接質問せずに、若年者の行動について仮定することは、リスクの過大評価につながる可能性もある。そうすると、リスクを抱えていると考えられる若者の数が、高齢者に比べて増える傾向にある。重要なのは、臨床医が若者が安心を与え、HIVやSTIのリスクのあるなしについて率直に話せるように訓練することだろう。
References
Sullivan A et al. The HIV pre-exposure prophylaxis (PrEP) IMPACT trial: baseline demographics, coverage and first regimen choice. Abstract O013. BHIVA/BASHH virtual conference, 2021.
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