【Books】勧めたい10冊(前編)

「#新大学生に勧めたい10冊」というハッシュタグをツイッターでみかけたので、私も。と思ったけど、全然「新大学生」じゃなくてもいいな、と思い、ブログは、このタイトルで。

たくさんありすぎたので、とりあえず、ジェンダー/セクシュアリティ関係に絞りました。

10冊のはずが、見出しの本以外の本も文中にとりあげたので、全然10冊に絞られてないじゃないか、という感じですが。

ちょっとした解説加えたぶん長めになったので、二回に分けて。


▼田中雅一/中谷文美 編 2005 『ジェンダーで学ぶ文化人類学』(世界思想社)

最近の日本の文化人類学界隈では、以前にも増してジェンダーというテーマは軽視されている感が強いが、ジェンダーという視点、テーマを外して、人文・社会系の学問を考えることはできない。

人文・社会系のジェンダー/セクシュアリティの理論全体にも、文化人類学は大きな貢献を果たしてきたが、そのことを思い出させてくれる本。

冒頭の「ジェンダーとセクシュアリティの文化人類学」(田中雅一)で示されている三つの視点、「当事者の声を聞く」「「常識を疑う」「性を問う」は、ジェンダー/セクシュアリティを直接的な関心テーマとしてない人にも重要。

似たテーマで、これよりちょっと難しめ(でも、大学の教科書を想定してつくられた)本として、『ジェンダー人類学を読む』(宇田川妙子/中谷文美 編 2007 世界思想社)あり(私も寄稿してます)。


▼川橋範子/小松加代子 2016 『宗教とジェンダーのポリティクス: フェミニスト人類学のまなざし』(昭和堂)

川橋(アカデミックの記述の慣例にしたがって敬称略)は、常に、女性を権力構造の犠牲者として見ることも、あるいは、そうした権力構造を看過して論じることも批判してきた。

この中でも、「女性たちを『宗教にすがる家父長制の哀れな犠牲者』として描き出す味方を排除しつつも、主体をロマン化することなく、女性を抑圧するさまざまな権力や差別のヒエラルキーの批判的分析が重視されなくてはいけない」と書き記している。

その視点は、他のマイノリティの問題について考える際にも参考になる。

そして、フェミニストの視点が「偏ってる」と思う人にこそ読んで欲しい本。誰もがそれぞれの偏りがある、と理解するために。

この本より難しい文章だが、さらに宗教とフェミニズムについて考えたい人には、川橋範子/黒木雅子 2004『混在するめぐみ ポストコロニアル時代の宗教とフェミニズム』(人文書院)も。


▼ロバート・ブレイン(木村洋二 訳) 1983 『友人たち/恋人たち 友愛の比較人類学』(みすず書房)

友人と恋人という区分は、自明なものであるかのように思われるが、そうではないことに気づかせてくれる本。様々な社会での、友情表現、制度化され結婚と似たような位置づけにある友情関係等、興味深い。

私は、この本やルネ・ジラール(古田幸男訳)1971 『欲望の現象学』(法政大学出版局)に依拠しつつ、博士論文(『新宿二丁目の文化人類学』として出版)のセクシュアリティに関する考察を書いた。


▼風間孝・河口和也・守如子・赤枝香奈子 2018 『教養のためのセクシュアリティ・スタディーズ』(法律文化社)

実は、「セクシュアリティ・スタディーズ」(セクシュアリティ研究)を全面に出した本は日本では少ない。最近では、LGBT関係の本が次々出されているが、セクシュアリティ(性的なこと/性に関すること、と私は日本語で説明したりする)全般を説明する本は少ない。

教科書として通読して(独立したテーマで章立てられているので、それぞれを読むこともできるが)、セクシュアリティについて学べる形となっている。SNS上の書き込みなどを見ていると、セクシュアリティ=LGBTに関すること、という誤解も多い中、広く読まれて欲しい(「あれそうじゃないの?」と思った人はぜひ)。

また、「クィアスタディーズ」に重点を置いたものとして 『LGBTを読み解く』(森山貴至 2017 ちくま新書)がある。難しい概念をわかりやすく説明している。事典的な読み方もできる、入門者向けのわかりやすい(しかし、深いところにも触れている)本としては、『はじめて学ぶLGBT』(石田仁 2019 ナツメ社)がある。


▼内藤千珠子 2005 『帝国と暗殺―ジェンダーからみる近代日本のメディア編成』

著者は近代日本語文学を専門とするが、小説などの文学作品だけでなく、新聞や広告といったものも含めたテクストを分析することによって、明治期に日本というネイション(国民=国家)が立ち上がっていく様子を綿密に描写している。

その中で、起きたのが、閔妃(朝鮮王妃)暗殺、伊藤博文暗殺、明治天皇暗殺計画としての大逆事件。そうした事件が、定型の物語を土台しながら、同時に増殖させていく。そこには、女性に対する差別的な視線、敵意が大きな役割を果たしてもいる。

これぞ言説分析、という本。言説分析とは? テクストとは? ということの理解にもなる。

GRADi

GrassRoots Actions for Diversity オープンリーゲイの文化人類学者 砂川秀樹